10月15日(土)、22日(土)の2回にわたり、阿蘇グリーンストックが主催する「阿蘇草原保全体験ツアー」が開催されました。参加者は、それぞれ約30人。体験したのは、「輪地切り(わちぎり)」と呼ばれる作業です。これは「野焼き」を行う前の準備作業で、周辺の森林や建物などに火が燃え移らないようにするための防火帯づくりのこと。燃やす草原との間の草を幅6~10メートルにわたって刈り込みます。例年、8月下旬~11月中旬に行われる作業で、期間中、週末を中心に1000人以上のボランティアが参加します。
ツアーの行き先は阿蘇郡高森町の小倉原牧野組合が管理する草原。スタッフから道具の扱い方や作業の注意点について説明を受けた後、輪地切り体験に移りました。初めて参加する人は、慣れない作業に戸惑う場面も見られましたが、時間とともに動きも徐々にスムーズに。体験を終えた参加者からは「阿蘇の草原が人の手で守られているのを初めて知った」「野焼きや輪地切りに関わる地元の人たちの大変さが分かった」などの感想が聞かれました。 |
焼くことで維持する 草原のさまざまな機能
▲毎年春先に行われる野焼きの様子。
阿蘇地域の風物詩の一つになっている |
阿蘇の草原は、古くから牛馬の放牧地や、その飼料となる牧草地として活用されてきただけでなく、山火事の延焼を抑え、森林と同じように水源かん養の役割も果たしています。そうした草原の機能を保全する目的で、毎年2月下旬~4月上旬に野焼きが実施されますが、なぜ草原を守るために、わざわざ燃やしてしまうのでしょうか?
「焼くことで、新たな草の芽吹きがよくなるほか、放牧されている牛に寄生するダニなどの害虫を駆除します。また、背の高いカヤなどを焼くことで、草原に暮らす希少な動植物に日光が届くようにします」と、阿蘇グリーンストック事務局次長の井上聡美さん。
草原は、そのままにしておくと草木が成長してしまい、やがてやぶなどの荒れ地になってしまいます。草原の状態で維持するためには“人の手”を入れる必要があり、そこで行われているのが野焼きというわけです。
文献には約1000年前から阿蘇で野焼きを行っていた記述があり、最近では約1万年前の地層から炭の成分が発見されるなど、阿蘇の草原は古来より人の手によって守られてきたことが分かります。
しかし現在、宅地化や農地化、造林のほか、担い手不足により草原の面積は「明治時代の約半分」(井上さん)と、減少の一途をたどっています。 |
全牧野の3割強でボランティアが支援 |
こうした状況に歯止めをかけようと、高齢化や組合員の減少で維持が難しくなっている牧野で輪地切りや野焼きの支援を始めたのが、阿蘇グリーンストックです。1999年3月に延べ110人のボランティアで始まった活動が、2015年度には62牧野約2500人に増加(下グラフ参照)。支援する面積は約5800ヘクタールに上り、阿蘇の全牧野の約36%に当たります。
■阿蘇グリーンストックからのボランティア派遣先牧野数と派遣人数の推移 |